模試試験中に痴漢!?
200X年某日、県立M大学の正門前に一台のバスが止まった。
くたびれた大型犬を思わせる古いバスは、制服姿の学生を吐き出し去っていった。
(ついにこの日ね……)
私服・制服、男・女、様々な生徒がバスから降りていく。
颯爽とバスから降り立った赤坂未由(アカサカ・ミユ)は、膝に掛かるほどのタータンチェックのスカートを揺らし、
指定された教室へ向かう為に第一キャンパスを探していた。
この日未夢が受ける加賀堂模試(通称・カガモシ)は、過去五年のセンター試験のデータを元に作られ、
模擬試験の中でもレベルの高いものだ。
未夢の目標は第一志望・第二志望ともにA判定、前回は逃したが今回は勝算がある。
前回の判定通知では第一志望がB、第二志望がB‐と(平均偏差値がべらぼうに高いカガモシでは)中々の成績であったが、
苦手科目の英語が足を引っ張っていなければAランクに食い込んでいたと確信していた。
未夢はこの日の為に対策用の過去問を解き、苦手な英語を重点的に責めていった。
見知ったクラスメイトが不在でのテストは初めてだが、そんなことで緊張していられない。
気だるい熱気と緊張を払うようにほっそりとした白い足を踏み出し、未夢は第一キャンパスへと向かった。
指定された教室は、私立高校に通っている未夢からすると随分と古ぼけて見えた。
上下の黒板が入れ替えられる可動黒板は物珍しかったが、
長机と椅子が繋がっている座席は少しの振動でキィキィと鳴き、床には所々大きな染みがこびり付いている。
潔癖症の未夢は思わず眉根を寄せたが、すぐに座席へと着いた。
(B2-203……ここだ)
再度受験票を取り出し、座席の確認をする。
B2-203と書かれた紙が机の端にピタリと貼られている。
この席は窓側の最後列であり、いわゆる不良の指定席としてお馴染みの隅っこ席だ。
未夢はそういった知識には疎かったが、一番後ろなら集中できるだろうと満更でもなかった。
不慣れな椅子に居心地悪そうに座り、古文単語帳を取り出そうとしたその時だった。
(うわ、大きい……)
未夢の近くによってきた男子生徒は、恐ろしく巨体だった。
身長は小柄な未夢とは30cm以上も離れ(恐らく185以上はあるだろう)、むき出しの腕はビール瓶よりも一回り以上も太い。
こう表記すると太ってるように思われるだろうが、腹は引っ込んでおり顔も厳ついが締まりが悪い訳ではない。
巨人の登場は、小柄な未夢にはまるでブナやコナラ等の大樹がニョキッと生えてきたように感じられた。
男は未夢の方をチラリと見ると、無愛想にソッポを向いて隣に座った。
その時、オンボロ椅子が悲鳴を上げたのは言うまでもない。
(何か怖いな……)
教室の最後列の席、加えて窓側というのは眺めのいいものだ。
だが、その隣に巨人が座っただけで、まるで押しつぶされそうな圧迫感がある。
これで体臭がキツくなかったのが幸いだ。
もし異臭がしていたら、たまらず座席の変更を申し出ていただろう。
「オーッス、杉本!」 「勉強やったか?」
またしても長身の男が二人もやってきた。
男達は未夢の目の前の席へと座り、身体を向きなおして後ろの男(杉本と言ったか?)に話しかける。
どちらもガタイの厳つい杉本と違い、細身で爽やかな好青年だ。
「怪我どーだよ?」 「ん、まあまあ……」
「明日応援いくだろ?」 「いや、俺はいいや。用事あるし」
「用事って、お前まだガーデニングやってんかよ」「んまあね、この夏は勝負時だし」
長身の男達に囲まれ、未夢はじょじょに不安がつのってきた。
それは特に根拠も理由もない第六感のようなものだったが、それがたまらなく怖かった。
だが、スピーカーから流れてくるチャイムが未夢を正気に戻させた。
(な、何よこれくらい……。
たかが図体のデカい男が出てきただけでビビッちゃって!
別に向こうが何かしてくるわけでもないし、心配ないの!)
フンッと鼻息荒く気合をいれ、生まれつきの鋭い目線で隣の杉本を睨んだ。
杉本はポカンと口を開け、やがて謙虚に会釈すると視線を黒板へと戻した。
やがて試験監督の説明が始まり、各々は筆記用具を取り出し解答用紙の一枚目に記入を始める。
不慣れな者、慣れた者。挙動は様々だが、一番やる気がなく呆け気味だったのは他でもない試験監督だった。
齢60にも70にも見える老人は、時々同じ説明を二度繰り返し、その度に未夢をいらつかせた。
未夢は会員番号、住所、志望校を書き終え、ふと隣の解答用紙が視界に入った。
見ると、解答用紙の上にコンビニのレシートを置き、何やらメモしている。
(ミナミカ ア・カ・イ?
何だろ、伝言かな?)
小首を傾げ覗き込んでいると、杉本は慌ててレシートをポケットに突っ込んだ。
杉本の無骨な左手の中でシャーペンが小刻みに震えている。
可愛らしいお猿のマスコットがプリントされていて、未夢はそのギャップにニコリと笑った。
そして、ついに試験が始まった。
HBの五角鉛筆は走らせ、未夢は次々に問題を解いていく。
第一問
[文中の(ア)~(オ)と同じ漢字を含む熟語を1~5から選べ]
ここは簡単だ。
顕然・潤滑・悉皆・混沌・脆弱
五つ全ての漢字を頭から引き出し、すぐに同じ漢字を見つける。
そして楕円を塗りつぶそうと鉛筆を持ち直したところで、未夢は右手を止めた。
スカートの中央に消しゴムが落ちている。
可愛いお猿の形をしたそれは、間違いなく隣に居る杉本のものだった。
どうしたものか。
わざとではない、うっかり汗で濡れた手から滑りおちただけなのは間違いない。
消しゴムの表面がしっとり濡れているのがスカート越しにも感じられる。
ふと床を見てみると、真新しい染みがいくつも出来上がっている。
多汗症なのだろうかと考えていると、再び視界の隅で水滴が滴り落ちた。
消しゴムをこのまま渡すべきなのだろうが、そうしたら不正扱いされないだろうか?
杓子定規な彼女は、侵入者の処理に迷っていた。
すると、脇からヌウッと腕が伸び、スカートの上から消しゴムを掠め取った。
その動きはスローモーで機械的、まるでUFOキャッチャーのクレーンのようであった。
彼の大胆な行動に未夢は驚いたが、すぐに試験へと意識を戻した。
そして、再びスカートの上から圧力を感じた。
ハッとして下を見ると、あの太い指が太ももの上に鎮座していた。
やがて、それは指輪を磨くような繊細な動きで動き出し、未夢はそれを理解するまで数秒を必要とした。
(えっ、やだ……何……?)
隣の男は、明らかに意識して触っていた。
五本の指は弧を描くように太ももの上を滑り、スカートのシワを伸ばすように丹念に上下する。
やがて掌が太ももから離れ、指先は膝小僧に到達した。
指先が膝小僧の上でクルクルと渦を作り、しっとりとした汗がバターのように塗りたくられる。
くすぐったいような快感に、未夢は思わず内股になって快感を受け止めた。
(どうしよう、これ痴漢よね?
え、試験監督に言わないと……でも……)
パニックに陥りかける未夢だが、誰も彼女の危機に気がつかない。
身長180cm台の男に囲まれた未夢の姿を詳細に確認できる受験生はいない。
仮に確認できたとしても、皆「法と精神におけるギャンブルの破錠」という論文に頭を抱えて気にも留めないに違いない。
首を伸ばして試験監督を探すも、頼みの綱の老人も冷気に浸りパイプ椅子にもたれ掛かりコクリと居眠りを始めた。
悲鳴を上げたくなるのを堪え、未夢はグッと息をつまらせた。
大声を上げるのも恥ずかしい……年頃の未夢にはつまらないことで目立つのは何よりも避けたいことだった。
加えて、テスト中という場の静粛な雰囲気にも、未夢は押されかけていた。
今まで痴漢に限らず、性犯罪には気をつけていたつもりだ。
なるべく電車よりはバスを使い、電車を使う時も混み合う時間帯は避けてきた。
だが、痴漢の現場は何も電車だけではなかったのだ。
手を伸ばせば身体に触れられる距離。
周囲に無関心な群集。
そして、被害者は騒ぎ立てることを許されない。
杉本の指が膝に掛かっていたスカートの裾をめくり始める。
露になった白い太ももに、一滴の汗が滴り落ちた。
その生暖かい感触に未夢の背筋が寒気立ち、反射的に杉本を睨むように見た。
未夢の鋭い目つきにも気おされ、杉本は申し訳なさそうな顔をして何やら口ごもった。
しかし、五本の指は留まるところを知らず、ついにスカートの中へと割って入った。
(いや、嫌っ!)
心の奥底では必死になって叫び声を上げ続けるが、実際の未夢は大人しかった。
時たま忍び寄る手を嫌そうに見たり、小さく息を吸う程にしか反応しない。
それは痴漢にして見れば極上の獲物にしか見えやしない、可愛い生贄だった。
太ももの上を直に指が触れ、やがて掌の圧迫感が伝わっていく。
不埒な掌は産毛を撫ぜるようにゆっくりと滑っていく。
やがて、掌は未夢の薄いショーツへ到達し、汗ばんだ指先が縦筋を掠めた。
未夢の額から汗がスゥっと流れ落ち、顔がほんのりと赤くなっていく。
今までにない快感に声を押し殺そうとするも、蜜のように甘い声が漏れ出てきた。
ショーツと間接の隙間から指が割って入り、今度は直に秘部を責めた。
「んクッ、ふゥゥ……ヒァッ!」
指先は淡い陰毛をサラサラと撫で上げ、指先で突起を摘んだ。
花を摘む時のように優しい指使いに、未夢の白い頬は真っ赤に染まった。
呼吸は不規則になり、やがて声を抑えようと自らの口に手を押し当てる。
濡れそぼった秘口は、ついに二本の指先で押し開かれた。
更にもう一本。今度は内部の粘膜を優しく指の腹で撫ぜていく。
未夢の頬から享楽の涙が零れ落ち、頬を伝ってブラウスに染み込んだ。
杉本がスカートから手を引き抜くと、次は上半身を責め始めた。
ブラウスの裾から背中へと入り、片手で小器用にブラジャーのホックを外す。
背中を撫で終えると、自分の身体に抱き寄せるようにして、未夢の乳房を蹂躙し始めた。
お椀型の乳房がグニグニと形を変え、強弱をつけて感覚を楽しむように揉みしだかれていく。
(ん、あ、ああ……。
や、ダメ……んゥゥゥ……)
時折、切なげな吐息が黒鉛の削れる音に雑ざり消えていく。
やがて指先が突起の先端に触れ、爪の先で豆を剥くように繊細に引っかき始める。
こそばゆい快感が未夢の心臓を揺らし、鼓動はますます暴れだす。
「ぁぁぁ……ンン」
未夢の唇から細く可愛らしい声が漏れ、プルプルと震え全身の力が抜ける。
未夢は抵抗することも忘れ、ただ快楽の海へと沈んでいった。